無嗅脳症では、しばしば、嗅球欠損と脳梁欠損が合併することが報告されてきた。また、遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)の脳でも、嗅球欠損の他、脳梁欠損、水頭症などを合併する。そこで、嗅球が欠損することと脳の他の異常が独立して起きるものではなく、何らかのシークエンスを持っているのではないかと考え、そのシ-タエンスを解きぼくすことを本実験の目的とした。 正常マウス胎仔の嗅球原基を子宮切開胎児外科法を用いてレーザー光で破壊すると、脳梁欠損が誘導された。また、嗅球原基を破壊したことによって増帽細胞も消失し、その神経支配を受ける梨状葉皮質にアポトーシス細胞が認められ、梨状葉皮質が形成されなかった。一方、遺伝性多指症/無嗅脳症マウス(Pdn/Pdn)の脳に多くのアポトーシス細胞が観察され、水頭症を合併する。そこで、Pdn/Pdnでは神経組織がアポトーシスで脱落し、脳実質が菲博化することによって、脳室が拡張し水頭症が発症したのではないかと考えた。 このように、嗅神経線維が終脳に接着しないことが無嗅脳症発症の出発点で、嗅球欠損を惹起し、この嗅球欠損が交連塊の異常を惹起し、脳梁欠損などを惹起する。さらに、嗅神経の支配を失った嗅球の増帽細胞はアポトーシスを起こし、増帽細胞の神経支配を失うと梨状葉皮質の前駆細胞はアポトーシスを起こして梨状葉皮質が形成されない。また、嗅神経線維が終脳に接着しないことから、LHRH神経細胞の遊走障害も認められた。これらの異常を胎生期を遡って観察すると、発生病態が連鎖発現(sepuential manifestation)していることが解った。
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