研究概要 |
まず開頭許可を承諾して頂いた剖検症例がここ数年に比べて非常に少なかった事を記さなければならない。これは家族の了承を経て得られるものであるのは当然であるので、異論をはさむ余地は全くない。 了解を得られたヒト成人剖検症例のラセン神経節、顔面神経膝神経節、前庭神経節においてPCR法でHSV-1核酸の検出が確認された。潜伏感染ウイルスの指標となるlatency-associated transcript(LAT)の発現をRT-PCR,ISH法にて検索したところ、膝神経節、前庭神経節においてはLATの発現が認められたが、ラセン神経節においてはLATの発現が認められなかった。また同様のprimer対で増幅される既知量のDNAと競合的にPCRを行い、アガロースゲル電気泳動後、神経節間の相対的なLAT量を算定したがやはりラセン神経節、前庭神経節では感染コピー数が三叉神経節、膝神経節に比し少なかった。 成人剖検症例のラセン神経節、顔面神経膝神経節、前庭神経節においてPCR法でHSV-1核酸の検出が確認されたことは、突発性難聴、ベル麻痺、前庭神経炎の病因の1つとしてウイルス説を1歩前進させたと考えられた。しかし潜伏感染ウイルスの指標となるLATの発現が顔面神経膝神経節では明らかに認められたものの、前庭神経節においては1症例1側のみに、ラセン神経節では検索した症例では確認できなかった。症例数が未だ足りないのか、HSV-1の潜伏感染コピー数が少ないのか、これら神経節細胞とHSV-1の親和性の差異に依るものなのかは、更に検討を要する処である。
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