研究概要 |
まず研究の一つの骨格であるヒト側頭骨の検索について、平成5年度、平成6年度共に開頭許可を承諾して頂いた剖検症例が、ここ数年に比べて少なかった事を記さなければならない。了解の得られたヒト成人剖検症例のラセン神経節、顔面神経膝神経節、前庭神経節においてわれわれは既にPCR法でHSV-1核酸の検出を確認している。このことは突発性難聴、ベル麻痺、前庭神経炎の病因の1つとしてのウイルス説を一歩前進させたと考えられた。しかし潜伏感染ウイルスの指標となるlatency-associated transcript(LAT)の発現をRT-PCR,ISH法にて検索したところでは、顔面神経膝神経節、前庭神経説においてはLATの発現が認められたが、ラセン神経節においてはLATの発現が認められなかった。このような結果の相違の一つの原因として、ラセン神経節においては潜伏感染コピー数が極めて少ないことが予想された。そこで、同様のprimer対で増幅される既知量のDNAと競合的にPCRを行い、アガロースゲル電気泳動後、神経節間の相対的なLAT量を算定した。三叉神経節、膝神経節でのHSV-1DNAあるいはLATのコピー数は前庭神経節のコピー数の約10〜10^2倍であった。またISH法にて、三叉神経節、顔面神経膝神経節ではそれぞれ平均1.2%,6.2%にLATの発現が認められたが、前庭神経節においては1症例1側のみLATの発現が見られ、神経節細胞の平均LAT発現率は0.1%以下であった。これに比しラセン神経節では検索した症例では確認できなかった。成人剖検例の側頭骨内知覚神経節においてPCR法でHSV-1核酸の検出が確認されたことは、突発性難聴、ベル麻痺、前庭神経炎の病因の1つとしてのウイルス説を一歩前進させたと考える。しかし潜伏感染ウイルスの指標となるLATの発現が顔面神経膝神経節では明らかに認められたものの、前庭神経節においては1症例1側のみに、ラセン神経節では検索した症例では確認できなかった。当初に述べた様な理由を背景に検索症例数が未だ足りないのか、HSV-1の潜伏感染コピー数が少ないのか、これら神経節細胞とHSV-1の親和性の差異に依るものなのかは更に検討を要する処である。
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