研究概要 |
PCR法による中耳貯留液中のサイトカイン遺伝子発現を検討した結果、IL-1β,IL-6,TNF-αをはじめ種々のサイトカインが貯留液中に存在することが確認された。これらサイトカインはネットワークを形成し、滲出性中耳炎の病態に関与しているものと考えられる。さらに興味あることに、中耳粘膜組織をin vitroでRSウイルスを接種して器官培養を行なったところ、IL-1β,IL-6,TNF-αなどの多機能をもち、炎症とも強い関連が示唆されるサイトカインの発現が認められた。このことは、RSウイルスが細菌感染を惹起したり、III型アレルギーを引きおこすまでもなく、直接にこれら炎症性サイトカインのup regulation作用を持つことを示している。また炎症巣への細胞浸潤は、血液中の炎症細胞やリンパ球が血管内皮細胞に結合することが、まずtriggerとなるが、これには血管内皮細胞,炎症細胞や、リンパ球の細胞膜に発現するICAM-1,VCAM-1,ELAM-1などの細胞接着分子が働く。今回の中耳粘膜組織を用いた検討では、RSウイルス接種3時間後ではこれら接着分子の発現は弱かったが、24時間後にはいずれも明らかな発現増加を認めている。このことは、RSウイルスに刺激され、産生されたIL-1β,IL-6,TNF-αのサイトカインが、血管内皮細胞に働き、これら接着分子の発現を誘導していると考えられる。またRSウイルスが線毛運動低下をひきおこすことも明らかとなり、RSウイルスにより誘導される種々のサイトカイン,細胞接着分子、あるいは線毛運動の低下が、滲出性中耳炎の病態形成に深く関与しているものと考えられる。
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