研究概要 |
平成七年度:腸管免疫による予防へのアプローチ RSウイルスは、表面に糖蛋白としてG糖蛋白とF糖蛋白を持ち、これらの糖蛋白が感染時に生体に中和抗体も含め強い免疫応答を誘導する。そこで、このGあるいはF糖蛋白遺伝子を含むrecombinant vaccinia virus(G・rVV.F・rVV)、及び対照としてcontrol vaccinia virus(C・VV)をBALB/Cマウスに経皮あるいは腸管内に接種し、3週間後にRSウイルスの経鼻接種を行ない、その3日後に鼻腔、肺胞洗浄液を採取し、その中に含まれる種々のサイトカインの定量及び細胞の検討をおこなった。また同時に肺組織を採取し、炎症の程度を比較検討した。G・rVVを皮内接種したマウスではRSウイルスの経鼻接種後に鼻腔、肺胞洗浄液中には、高濃度のIL‐2、IL‐4、IL‐5,IL‐6,INF‐γが検出された。肺組織はリンパ球の強い浸潤を伴った肉芽様病変がみられ、炎症変化が顕著であった。F・rVVでは、高濃度のIL‐2,IFN‐γが洗浄液中に検出されたが、肺の炎症変化は軽度であった。C‐VVでは、肺胞洗浄液中に軽度のIL‐6,TNF‐α,IFN‐γの上昇を認めたが、肺の炎症変化はG・rVV、F・rVVを皮内接種したマウスに比べ、軽度であった。なお、皮内接種3週間後の血中にはRSウイルスに対する高い中和活性が認められ、C・VV皮内投与マウスでは、RSウイルス鼻内接種3日後をピークに肺でのウイルス増殖が認められたが、GあるいはF・rVVではウイルス増殖は非常に低値であった。このようにG糖蛋白でPrimeしたマウスでは強いTh1,Th2 サイトカインの誘導がみられ、ウイルス増殖は抑制されたものの、強い炎症変化が誘導された。一方腸管投与した場合には、肺組織変化は皮内接種に比べ軽度で、F‐rVVはG・rVVより軽度であり、C・VVはさらに軽度であった。ウイルス増殖は皮内接種と同様に抑制された。以上の結果より、腸管投与は皮内接種より組織炎症変化の誘導は少なかった。このことは腸管免疫による感染予防の可能性を裏づけているが、まだ炎症変化の点で検討の余地がある。今後は鼻内投与での炎症変化の誘導の検討が必要であろう。
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