研究概要 |
人工内耳埋め込み患者が、電気的に与えられた聴覚へどの程度の適応能力を持つか、については術前に予知する方法はなかった.本研究では、人工内耳動物モデルおよび人工内耳患者において、聴覚の可塑的変化の予知、その程度の推測の可能性について検討した. I.人工内耳動物モデルを用いた聴覚の可塑性の研究. カナマイシンにて聾とし、内耳に刺激電流を埋め込んだ人工内耳動物モデルを作成し、電気聴性脳幹反応(EABR)を記録した.聴覚の正常な動物を対照とし、誘発電位を比較すると、その域値には差がないが、刺激・振幅直線の勾配は聾動物で有意に小さかった.これは、電気刺激により活性化される聴神経の数が聾動物では少ないことを意味している.聾患者において、機能している聴神経の数、程度を知ることができれば、最も正確に術後の言語聴取能を予測することができる.EABRの刺激・振幅直線の勾配から、機能している聴神経の数を予測できることを示す結果であった.また、電気的に与えた聴覚によって中枢聴覚系におこる変化を、細胞内で働く二次情報伝達物質であるFos蛋白の発現から調べた.この結果、背側蝸牛神経核に最もFosの発現が多くみられ、この部位が電気的に与えた聴覚により最も賦活されやすい部位であることがわかった. II.人工内耳患者における聴覚の可塑性の研究. 人工内耳装用者の言語聴取能を経時的に調べ、人工内耳の各電極の電気生理学的因子(T-,C-level,dynamic range)との相関を検討した.これにより時間経過に対応した言語聴取能の改善と、電気生理学的因子の変化が明かとなり、ヒトの聴覚経路においても可塑的な変化がおこっていることが明かとなった. 以上の、二つの研究からいったん聾となった個体におこる聴覚の変化について考察した.
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