前庭神経核亜核(上核、外側核、内側核、下核)電気刺激後に後視視床下部(PH)ニューロンの応答について検討した。上核刺激では同側刺激で30%に、対側刺激で25%に興奮性反応がみられた。外側核刺激では60%が反対側刺激に、12%が同側刺激に応じた。また、内側核、下核刺激に応じるニューロンはほとんど認められなかった。以上から視床下部に上行する前庭情報は上核、外側核経由すると考えられ、亜核間に投射様式の差があることがわかった。次にカロリック刺激を加えたときのPHと室傍核(PVN)のニューロンの応答について検討した。右側中耳骨胞に冷水(10℃)または温水(44℃)を注入するとPHニューロンは温刺激に16%が興奮性に、27%が抑制性に反応し、冷刺激には28%が興奮性に、32%が抑制性に反応した。PVNニューロンについても応答率・様式ともPHと類似した結果であった。PVNにおいて温刺激、冷刺激を加えた際の血圧の変動とニューロン活動の変化との関係についても検討した。PVNニューロンの活動が変化した例では血圧低下がほぼ全例におこったが、神経活動の変化がなかった例では血圧低下はほぼ65%の例にとどまった。このことからPVNニューロンの活動性の変化と血圧変動に代表される自律神経活動とは何らかの関係があることが示唆された。またフェニレフリンまたはニトロプルシッドを投与して抹消性に血圧を変動させても神経活動に変化はなかったことから神経活動の変化は血圧変動に起因するものではないと考える。またPHおよびPVNにおいては温刺激で興奮するものは冷刺激でも興奮し、温刺激で抑制されるものは冷刺激でも抑制された。よって半規管刺激が加えられた際、視床下部ニューロンは回転方向の検知は行わず、刺激の有無を検知しており、これは自律神経反応の発現機構を理解する上で合理的な結果であると思われる。
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