研究概要 |
本研究の目的は,真珠腫性中耳炎の発生機序の解明のために,ヒト真珠腫性中耳炎より採取した試料からサイトケラチンを抽出し生化学的ならびに免疫組織学的に分析し,さらにサイトケラチンの分解産物の生物学的活性についてCSFとの関連で検討するものである。 今回の研究期間内では,以下の成績が得られた。対象とした試料は,健常皮膚,緊張部ならびに弛緩部タイプの真珠腫性中耳炎の上皮である。抽出したサイトケラチンを1次ならびに2次元電気永動にて解析した。また,皮膚ならびに真珠腫の上皮の連続切片を作成し,基底層から有棘層,角質層までのそれぞれの切片におけるサイトケラチンを分析した。 全ての検体でサイトケラチン14/5,10/1のペア-が認められた。また,サイトケラチン16/6と19が緊張部ならびに弛緩部の真珠腫性中耳炎で認められたが,皮膚ではサイトケラチン16/6と19は認められなった。連続切片の解析で,サイトケラチン14/5,10/1の発現パターンは,皮膚,緊張部ならびに弛緩部タイプの真珠腫性中耳炎で差はみられなかった。しかし,真珠腫性中耳炎の上皮では表層に近づくに従って68〜40KDにわたる幅広いバックグラウンドが同定された。 本研究では,全ての真珠腫性中耳炎の上皮にサイトケラチン16/6あるいは19が同定されたのではないが,過増殖のマーカーであるサイトケラチン16/6あるいは19が真珠腫の上皮に認められた点は興味深い。すなわち,真珠腫性中耳炎の上皮の一部には過増殖を示す細胞が存在することになる。また,真珠腫性中耳炎の上皮表層の68〜40KDにわたる幅広いバックグラウンドは,上皮に含まれる多くの蛋白分解酵素によって,サイトケラチンが分解されて分子量が小さくなった結果と想定した。以上の成績から真珠腫性中耳炎の上皮の過増殖性が示唆され,臨床的に観察される病変の進行性を示す基礎的データが示された。
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