真珠腫手術新鮮例の組織培養では1年目は組織培養法の再現性を確認し、まず上鼓室真珠腫に限って鼓膜から真珠腫への移行部位、上鼓室部位、scutumから外耳道へ移行する部位の3ケ所の上皮組織の培養を行い移送能の検討を行っており、その数を増加しつつある。また同時に手術症例のうち真珠腫上皮を摘出することなく、上皮欠損部に皮膚材料としてのフラップとして真珠腫上皮を用いた症例でその真珠腫上皮をマーキングし、その行方の検討を行う。すなわちこのフラップとして用いた真珠腫上皮が消失するものなのか、また正常外耳道、鼓膜上皮となって従来の外耳道鼓膜上皮と同化しその移送能を回復するのかを検討中である。平成6年度以降は真珠腫の移送能につき、小児と成人、またdebrisの多いもの、少ないもの等の種々の真珠腫においてその移送能がどの程度異なるかの比較検討も追加して行う。また、癒着を伴う辺縁性真珠腫にも応用し、辺縁部の陥凹部位の幾つかの点を取り、系統的にその移送能について検討を行い、さらに1年目に行った研究の成果を発表する予定である。 また臨床的には我々の真珠腫に対する手術法は一期的手術が主体であり、その欠損上皮の補填材料に、真珠腫上皮をも使用し可能な限り欠損上皮が少ないように心がけて手術を施行した。その結果は順次成果として別表の如く発表がなされている。現在までのところ真珠腫上皮は外耳道皮膚と同等の移送能を有し、通常のmigrationを行うことが判明しつつあり、上皮そのものにはmigrationの異常はないことが分かってきた。これは真珠腫上皮そのものに問題があるのではなく、その下部組織、すなわち上皮下の細胞外マトリックス等に問題があるのか、またはその奥に存在する乳突腔の病態に問題があるのかが推察される。
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