研究概要 |
本年度は、光学顕微鏡、電子顕微鏡による通常の病理組織学的検索を加えて、神経伝達物質の免疫組織化学的検索を行なった。従来通り白色家兎眼を当科設備の硝子体手術装置を用いて手術を施行してモデルを作製した。人工的に裂孔原性網膜剥離を作製しておいて、網膜色素上皮細胞をシリコンブラシで傷害した後に次の二群にわけた。第一群は、そのまま網膜を復位させ、第二群は、別の有色家兎眼から採取した網膜色素上皮細胞を網膜下の網膜色素上皮細胞除去部に移植した後に網膜を復位させた移植群とした。手術後一定期間をおいて家兎の眼底を撮影した後、GABA,Glutamate,Glycineの3種の神経伝達物質の局在を免疫組織化学的手法を用いて調べた。その結果、網膜色素上皮細胞をシリコンブラシで傷害した領域において、移植した網膜としない網膜で神経伝達物質のGlycineに局在に差が認められた。GABA,Glutamateについては網膜色素上皮細胞の傷害眼でも局在に変化がなく、移植による差も見られなかった。Glycineの局在は正常眼では、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層に認められる。ところが、網膜色素上皮細胞をシリコンブラシで傷害した領域においては視細胞内節付近の網膜外層にもGlycineの局在を認め、網膜の障害を反映した異常な所見と考えられた。これに対して、網膜色素上皮細胞をシリコンブラシで傷害した領域の中でも網膜色素上皮細胞を網膜下に移植した部位の周囲では、この異常局在が見られなかった。これは、網膜の障害に対する網膜色素上皮細胞移植の保護的作用を示している可能性があり興味深い結果であった。これらを発展させて行けば、人間の疾患や病態においても、網膜移植を治療へ応用できるかもしれない。
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