研究概要 |
静脈栄養(TPN)時に腸粘膜の萎縮を招き、小腸粘膜防御機構(gut barrier)が破綻を来し、腸内細菌が腸管の血管系に入り、sepsisの原因となる、いわゆるbacterial translocationが注目されているが、そのメカニズムは明らかでない。Gut barrierとしては種々のものが挙げられるが、本研究では腸上皮細胞に沿って存在する粘液層Pre-epithelial Mucus Gel(PMG)に注目し、これの分布形態並びにgut barrierとしての機能について検討した。従来、管腔内における液性成分の分布を光顕下で捉らえるのは困難であったが、大腸のPMGの測定に用いられたcelloidinによる凍結切片の安定化を小腸に応用することにより、小腸のPMGを組織学的に捉えることが可能となった。これを用い以下の検討を行った。1)ラットの新生仔より成熟ラットに至る成長過程における粘液層の発達並びにgut barrier機能として腸管透過性の検討。腸管透過性の指標としては蛍光標識されたFluorescein Isothiocyanate Dextran 70,000(FITC-dextran)を胃内に投与し1時間後の血漿濃度を測定した。結果は離乳前期に絨毛間に殆ど存在しなかった粘液が離乳期以後に絨毛間隙を埋める分布をとり、FITC-dextranの分布は粘液分泌と相補的関係にあった。またFITC-dextranの腸管透過性は離乳期以後減少した。2)TPN時の粘液分布と腸管透過性を検討。TPN施行下にラットを飼育し4日および7日目に、胃瘻を介してチューブよりFITC-dextranを投与し、1時間後の血漿濃度を測定した。またFITC-dextranの粘液層の管腔内分布を観察した。結果はTPN施行時には粘液による絨毛の被覆が損なわれ、FITC-dextranは絨毛間隙を埋める分布をとった。またFITC-dextranの腸管透過性の亢進が認められた。以上により、小児期の小腸粘膜防御機構の破綻に起因する病態やTPN時の粘膜防御機構の変化を解明する上で、粘液層の役割が重要であることが示された。
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