研究概要 |
静脈栄養(TPN)時にみられるBacterial translocation(BT)に一因として小腸粘膜防御機構(gut barrier)の破綻が挙げられる。Gut barrier として腸上皮細胞に沿って存在する粘液層Pre-epithelial Mucous Gel(PMG)に注目し、包埋剤celloidinによる凍結切片の安定化により小腸のPMGを組織学的に捉えることを可能とした。これと腸管透過性の指標としてfluorescein isothio cyanate dextran 70,000(FD)を用い以下の研究を行った。I.成長過程における粘液層(PMG)の発達についての検討 II.静脈栄養時の小腸粘膜萎縮に伴う粘液分布形態の変化と腸管透過性の検討III.粘液溶解剤N-acetyl cysteine(NAC)および粘液産生抑制剤Colchicine(Col)が小腸粘液層および腸管透過に及ぼす影響に関する検討 [結果]I.生後3日および1週ではvilli間隙が粘液で満たされるには至らないが2週目以降空腸、回腸ともにvilli間隙に粘液の存在が認められ、4週以降はこの粘液でvilli間隙が満たされた。 II.TPN群ではvilliの萎縮が認められ粘液はvilli間隙を埋めつくす分布形態を取らず、FDがvilli間隙を満たす分布が認められた。血漿FD濃度はTPN群がCHOW群に比べて有意の高値を示した。 III.血漿FD濃度はNAC群、Col+NAC群はそれぞれ対照群、Col群より高値を示し、またCol+NAC群はNAC群より高値を示し。即ち粘液産生抑制剤の腹腔内単独投与のみではFDの腸管透過性の亢進はみられず、一方粘液溶解剤の小腸管腔内投与により、FDの腸管透過性の亢進が認められ、両者の併用で更なる亢進がみられた。また対照群とCol群ではvilli間隙は粘液にて満たされておりFDには満たされていなかった。一方、NAC群とCol+NAC群ではかなりの部分がFDで満たされていた。対照群とCol群のvilliは正常であったが、NAC群ではvilliの浮腫が認められ、Col+NAC群ではvilliの損傷がみられた。以上、PMGの分布形態の変化が腸管透過性に影響を及ぼしTPN時のBTの一因になることが示唆された。
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