ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)はtax癌遺伝子(以下遺伝子はtax、蛋白質はTax)を有し、これによりTリンパ球を不死化させ成人T細胞白血病発症の中心的役割を果たしている。HTLV-I不死化T細胞株は野生型p53癌抑制遺伝子を発現しており、p53蛋白質(p53)発現量はTax高度発現細胞で増加していること、このp53発現増加はp53の安定化によること、またTax-p53複合体形成は免疫沈降法によっては検出されないことを我々はこれまでに明らかにした。動物およびヒト細胞の不死化およびトランスホーメーションにはp53の不活化は不可欠であると考えられるが、我々の結果はHTLV-I不死化細胞においてTaxがp53発現量を増加させ、しかもその増殖抑制能を阻害している可能性を示唆している。本研究においてp53発現量とp53の生化学的活性である転写活性化能におよぼすtaxの影響をp53の欠如したSaos-2細胞を用いて検討した。taxおよびp53両方を発現させた場合、p53単独発現導入時に比較して約20-30倍のp53発現量の増加が認められた。taxはCREB及びNFκB活性を有するが、in vitro mutagenesisにより作成した変異型taxを用いた実験により、p53発現量増加はCREB活性ではなくNFκB活性によるものと考えられた。p53結合配列を有するプロモーターに対するp53の転写活性化能はtax存在下でも保持されていたが、p53レベルが20-30倍増加してるのにも関わらずその転写活性化能の増加は認められなかった。以上よりHTLV-Iはその癌化機構においてtaxを介してp53癌抑制遺伝子の発現と転写活性化能を修飾していることが示唆された。
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