舌の形や機能はそれぞれの動物の棲息する環境や摂食の様式と相関連して発達してきたと考えられ、哺乳類にみられる舌や舌乳頭の形態も動物の種により、それぞれの特徴が見出される。これまでに調べた所見では糸状乳頭の結合織芯は齧歯目や食虫目の簡単な構造のものから食肉目、霊長目へと複雑化している。特に食肉目のイヌ、ネコで糸状乳頭がよく発達し、その外形と共に結合織芯もまた大形で鋭く尖った突起を持つ。これに対して今回は草食性動物である偶蹄目のウシの舌について調べた所、ウシの糸状乳頭は大型棍棒状で、上皮層も厚く、結合織芯は円柱状でその周辺部から特に細長い多数の突起を派出していることが明らかになった。またウシの茸状乳頭の結合織芯はバルーン状で、ところどころに味蕾を入れる小陥凹をもっていた。一方霊長目のヒトでは糸状乳頭は多数の細長い突起をもち、上皮剥離後、その結合織芯をみると、円柱状の上面に陥凹部があり、その周辺から10〜30本の小杆状突起が出ており、陥凹部の中央からも1〜3本の棘状の突起が突出するものがしばしば見出された。この様な構造は他の動物では見られずヒトにおいて特有なものであった。ヒトの茸状乳頭の結合織芯はサンゴ様の構造をもち、側面に多数の小杆状突起がみられ、特に上面に分布する小突起はしばしば分岐し、その上端に味蕾を乗せる小円形の陥凹部が存在した。多くの教科書でヒトの茸状乳頭には成人では味蕾は存在しないと記されているが、今回の研究からヒトの茸状乳頭には若年者にも老齢者にも数の差はあれ殆どの例で味蕾をもつことが明らかにされた。なおヒトの有郭乳頭と葉状乳頭には他の動物と同様多数の味蕾が観察された。一方海棲哺乳類であるトドの舌について調べた結果、舌背には特に大型の糸状乳頭が密集しており、その結合織芯はほぼ同形を示した。これらの大型糸状乳頭の間に挟まってある小丘状の高まりの頂上にしばしば味蕾が観察された。
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