哺乳類の舌はそれぞれの動物によって異なった形態的特徴をもつが、これはそれぞれの動物の食性の違いを反映しているものと考えられる。舌の外形もさることながら、舌背に分布する4種類の舌乳頭の形態も動物によってかなり異なる。さらに舌粘膜の上皮を剥離して、下層にある結合織芯を走査電顕で拡大して観察するとそれらの特徴はより一層明瞭になる。分類学上、下等な齧歯目のラット、マウスでは糸状乳頭の結合織芯は単純な三角錐形を示すが、ハムスターではむしろ食虫目のモグラに似てシャモジ形を呈する。霊長目のツパイでは小突起を多数もつようになり、カニクイザルではその数がさらに多くなる。前肢を食飼の際に使用できない食肉目のイヌ、ネコは特に大型で鋭くとがった糸状乳頭をもち、その結合織芯も太くて長い。この様に食性の異なるいくつかの動物で、糸状乳頭の結合織芯の立体構造にきわだった特徴が観察された。そのため今回は草食性動物であるウシの舌乳頭について検索を試みた。その結果ウシでは糸状乳頭は大型棍棒状で、上皮細胞層も厚く、結合織芯は円柱状の1次結合織芯の周辺部から多数の細長い小突起が2次結合織芯として突出するが、この小突起はウシでは特に長く、数も多い。茸状乳頭もまたバルーン状の結合織芯をもち他の動物のものとは異なる。またヒトの舌乳頭について詳細に検討したが、糸状乳頭の結合織芯は円柱状の一次結合織芯の周囲から多数の小突起が出るとともに、中央部からも突出する2〜3の突起をもつ型で、ヒト特有の構造をもつことが明らかとなった。さらに海棲哺乳類であるトドの舌について調べた結果、舌背には肉眼的にも明瞭な特に大型の糸状乳頭が密集し、上皮を剥離すると結合織芯はほぼ同形を示した。これらの大型糸状乳頭の間に小さな丘状の高まりが点在し、この頂上にしばしば味蕾が確認できた。水中生活をするトドで特によく発達した舌乳頭がみられたことは興味がもたれる。
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