平成6年度の実施計画に基づいて行った研究の主な成果は下記のとおりである。 1.形態学的にはエナメロイド石灰化期の初期にエナメロイド結晶は単位膜にとり囲まれていて、エナメロイド基質に多数存在するtubular vesicleの中に存在しているように見える。結晶はtubular vesicle中で一定の大きさまで成長するように思われる。また、tubular vesicleの膜は象牙芽細胞の細胞膜と連続しているように見えることから、結晶が形成される場であるtubular vesicleは象牙芽細胞由来と思われる。以上は観察したサメ・エイ類において基本的に認められたので、板鰓類のエナメロイド石灰化に一般的な現象と思われる。 2.象牙質形成が始まり、エナメロイドの石灰化がさらに進行した時期になるとエナメロイドは未脱灰切片では多数の比較的大きな六角柱状結晶が密につまった状態となる。一方、脱灰切片では単位膜やコラーゲン線維の断片が少数観察される程度となり有機基質の分解と脱却が進んでいると思われる。この時期の内エナメル上皮細胞は多くの顆粒、小胞を有し、最も小器官が発達した状態となる。基底膜も部分的に消失し、上皮細胞は遠心端が直接エナメロイド表面に接するようになる。 3.組織化学・細胞化学的研究によると、エナメロイド石灰化期に入ると内エナメル上皮細胞の、特に細胞膜に強いアルカリ性フォスファターゼの活性が検出される。酸性フォスファターゼの活性は内エナメル上皮細胞を取り巻く上皮細胞に強く出ることがあるが、これには種差がある。エナメロイド石灰化期の後半における結晶成長と有機基質の脱却には上皮細胞が大きく関与していると思われる。したがって、象牙芽細胞によって形成されたエナメロイド結晶はある時期から上皮細胞の制御を受けるようになり、結晶生長が進行するものと考えられる。
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