失われた咬合・咀嚼機能を人工歯根(インプラント)の植立によって回復させようとする、いわゆる置換医療が近年脚光を浴びるようになり、臨床での普及が急速に拡がりつつある。しかしながら臨床だけが進み、基礎研究がおくれている分野であると言われている。そこで今日、臨床で多用されている歯科用インプラントの一種であるBonefit Implant (ITI)を実験的にイヌ下顎骨に植立し、その後の周囲組織の修復・再生によるインプラントと骨との結合(接合)、すなわちOsseintegration達成までを、インプラント周囲の骨新生ならびに骨新生に寄与する新生血管網の経時的変化に注目し、骨付血管鋳型法とインプラントを含む非脱灰組織切片を併用し、Osseointegrationと新生血管網との関係を立体的に検索することにより、臨床での裏付けを得る目的で本研究を始めた。骨中に植立したインプラントと新生骨とのOsseointegration達成までの経過と、これに寄与する新生血管網の経時的変化については当初の目的を充分に果たしたと思う。またインプラントと軟組織(歯肉)との関係が大変重要な問題点であることが本研究によって示唆された。インプラント植立後に最も注意を払う点は、インプラントと歯肉からの感染による歯槽骨の吸収である。チタンは上皮に対して良好な親和性をもってはいるが、しかし天然歯と同様に付着上皮構造をもたず、単に密接しているに過ぎない。インプラントと接する結合組織層の線維束がインプラントを緊密に被包することによって、歯肉上皮の下方増殖を防ぐと考えられる。したがって歯肉上皮の長い付着は、感染の危険率が高くなると考えられるが、どのくらいが適当であるのかはいまだ明らかでない。同時にインプラントにも天然歯における付着上皮直下に見られる局所の生体防御作用を果たす特異な血管網が形成されるか明らかにされていない。今後この点について研究を進める必要を強く感じた。
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