本研究は、in vivoおよびin vitro両系で骨芽細胞関連の脂質、多層膜構造物(MLS)を形態学的に証明するものである。MLSは、ほぼ球形〜半球状(<1.5mum)の構造物で、オスミウム酸の前にタンニン酸を含むグルタールアルデヒド固定液(pH7.3)で固定したときのみ観察されるものであり、タンニン酸が存在しても酸性条件下の固定、またはタンニン酸を用いない通常の弱アルカリ条件下での固定では、薄い層からなるラメラ構造で周囲を囲まれた脂肪滴(LD)が観察されるのみであった。このことは、骨でみられるMLSがアルカリpHでラメラ構造を形成し、酸性pHでは脂肪滴を形成する、pH変化でいわゆる相変化を示す特徴をもつタイプの脂質であることを示している。 さらに、オスミウム酸を前固定液として用いた化学固定法や、オスミウム・アセトンを置換液として用いた急速凍結置換固定法においても、細胞外LDの保存性については決して良好とは言えなかった。従って、これら構造物の可視化にはタンニン酸を含むグルタールアルデヒド固定と脱水過程における配慮がきわめて重要であることが明らかとなった。 アルカリ性条件下で、タンニン酸によって形成されたMLSは成分的にはリン脂質または脂肪酸の可能性があるが、リン脂質および脂肪酸の純品を用いたアルカリ性・酸性両pHにおけるFreeze-Fracture予備実験から、全てではなくともほとんどが脂肪酸としての特徴を持つものであると推察された。 以上の結果から、脂肪酸が骨芽細胞により合成・分泌されることを示すものであり、また骨石灰化に脂肪酸がおそらくCa^<2+>トラッピング作用として関与する可能性を示唆するものである。
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