1.前固定時のpHが弱アルカリ性に調整された条件下では、発育中のマウス頭蓋冠(頭頂骨)の骨芽細胞において、類骨に面する細胞形質膜上、または細胞間で多層膜構造物(MLS)が出現、2.一方、酸性条件下(pH6.8)の固定ではMLSは出現せず、周囲を薄い多層膜または限界膜で囲まれた空胞状構造(VS)が出現、3.これらの構造がpH依存性であることを踏まえ、前者はイオン化脂肪酸(IFA)、後者を非イオン化脂肪酸(PFA)として両者を鑑別した。4.特に、後者は電顕用試料作製のための脱水過程で有機溶媒によって溶解傾向が強く、その保存については前固定時にマラカイトグリーン使用することでPFAを観察することができた。 以上の生理・化学的特徴を有する細胞外のpH依存性の多層膜構造物(MLS)について、主として組織化学的にカルシウムイオンおよび多糖体検出をこころみた。 1.カルシウムイオンの検出: NHA(n-n-naphthaloylhydroxyalamine-Na)のカルシウムイオンとの親和性を利用し、NHA-Caの沈殿形成をこころみたが、結果は不安定であった。また、同様目的でシュウ酸カリウム-オスミウム・アンチモン酸を用い、アンチモン酸カルシウムの最終沈殿物はMLS上に認められ、カルシウム元素分析でもカルシウムが検出された。 2.多糖体の検出: 超薄切片上で、過ヨウ素酸-チオカルボヒドラジド-蛋白銀による多糖体検出を行ない、MLS上に銀粒子を沈着物が観察された。 コレステロールの検出: MLS上にはコレステロール・ジギトニン複合体が観察することができた。 以上の結果から、細胞外MLSはカルシウムトラッピングとともに、多糖体、コレステロール成分を含有する複合体であり、類骨中においては石灰化との緊密な関係が示唆された。
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