1.研究目的 唾液腺の分泌活動は自律神経系により調節されている。このメカニズムを明らかにするため、脳幹部において唾液分泌に関与する神経回路網の性質を電気生理学的手技により検索する。まず、行動学的に摂食中や飲水(味溶液を含む)中の唾液分泌を測定した。また、脳幹部の新鮮薄切(スライス)標本を作製し、in vitroの状態で上唾液核細胞(副交感神経性の分泌中枢)の神経活動を分析した。 2.研究成果 (1)実験動物にはラットを使用した。ラットが多量の唾液分泌を生じるのは、摂食中、毛づくろい中、味覚嫌悪行動中(苦味物質を摂取した時)であった。動物が持続的に味溶液(甘味、塩味、酸味)を摂取している時には、少量の唾液分泌が認められた。 (2)鼓索神経(上唾液核細胞の遠心性線維と孤束核に投射する味神経線維を含む)にHRP溶液を注入し、組織化学的(HRP法)に上唾液核細胞と孤束核を染色した。この結果、上唾液核と孤束核を含む新鮮脳薄切標本の作製が可能であること、また上唾液核細胞は生後約4日めまではほぼ球形をしており、その後約10日めまでに2-5本の樹状突起を有する形態へと変化することが分った。 (3)生後約一週間のラットを使用し、鼓索神経に蛍光色素(テトラメチルロ-ダミン)を注入し、注入2日後に新鮮脳薄切標本を作製した。蛍光色素で標識された上唾液核神経から細胞内記録法またはホールセルパッチクランプ法にて記録を行った。その結果、上唾液核細胞はアセチルコリンに感受性があるらしいことや、興奮状態では約20Hgの頻度でスパイク発射することなどが分った。今後は、孤束核(味覚の中継核)などとの機能的な連絡関係についても調べる必要がある。
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