研究概要 |
本研究の目的は,いわゆる「片側パーキンソン病モデルラット」を用いて、咀嚼運動および歩行運動の発現に大脳基底核、なかでも黒質線条体ドーパミン(DA)路の関与を明らかにすることである。ラットの右側黒質にステレオタキシックに6-hydroxydopamine5μgを注入し、A9黒質DA細胞を選択的に化学的破壊して片側パーキンソン病モデルラットを作製した。メタンフェタミン(MATA)5mg/kgの腹腔内投与で回転運動を誘発後、時々刻々のラットの動きをビデオに録画し、左右側の上腕三頭筋咬筋および顎二腹筋からスリップコネクターを用いて表面EMGを記録し同時に最高回転数を目測した。C2頸髄を切断した浅麻酔モデルラットを脳定位固定装置に付けた後、MATAを投与しリズム性顎運動を誘発し、咀嚼筋EMGおよびLID応用の顎運動記録装置により顎運動を詳細に解析した。モデルラットの左右の咬筋に一定量のHRPを注入後、直ちにMETAを投与して回転運動を誘発し、回転数を測定した。16時間生存させた後、脳幹の凍結連続切片を作製し、顕微画像解析装置により左右の咬筋運動細胞群のHRP逆行性輸送量を測定した。以上の実験の結果、つぎのような結論が得られた。(1)メタンフェタミン刺激による黒質線条体ドーパミン路の活性化は、咀嚼運動および歩行運動を発現する。(2)回転運動に伴う上肢筋のリズミカルな筋活動は健常側から先に起こり、破壊側では常同行動性の著しい不随意運動が発現する。(3)回転運動に伴い、左右の咬筋および顎二腹筋に持続の長いEMG活動がほとんど同時に発現する。(4)頸髄を切断したモデルラットをメタンフェタミン刺激すると、約1Hzの周期で左右の咬筋と顎二腹筋にほとんど同時に0.5秒程度の持続を持つEMG活動が生じる。咬筋では破壊側に強い活動が、顎二腹筋では左右側にほぼ同等の強さの活動が生じるが、この際顎二腹筋の方が咬筋よりも活動が顕著である。
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