S.mutansのPTS蔗糖エンザイムIIの遺伝子(scrA)発現調節機構解明のため、scrA遺伝子周辺に存在するであろうその調節遺伝子の検索を行なってきたが、scrA遺伝子のすぐ下流の存在する遺伝子は、scrAの調節遺伝子ではなく、フルクトキナーゼをコードする構造遺伝子scrkであることがわかった。これにより、蔗糖がEmbden‐Meyerhofの解糖系路へ至るまでの代謝系路の酵素の遺伝子がすべて同定されたことになる。にもかかわらず、scrK遺伝子の下流には更にもう一つ構造遺伝子らしき遺伝子がみいだされ、これら両者の間には転写終結シグナル様配列が認められず、scrKとオペロンを形成しているように推察された。scrKにコードされるフルクトキナーゼはマンノースもリン酸化することから、scrK下流の遺伝子はマンノース代謝に関連した酵素をコードしている事が考えられ、この作業仮説に沿った検索を行ったところ、scrK下流の遺伝子はホスホマンノースイソメラーゼ遺伝子pmiであることが判明した。一方、scrA発現に影響を与える代用糖、ソルビトールについてそのS.mutansの変異株の分離を試みた結果、数株のソルビトール代謝変異株を分離した。これら変異株の内、ソルビトール非代謝性がもっとも顕著だった一株の解析を行ったところ、この株はソルビトールだけではなくマンニトールも非代謝性となっており、しかも嫌気条件においてのみ糖アルコールを代謝できない変異株であることがわかった。このことからこの株はピルビン酸ギ酸リアーゼの失活変異株と推察され、その活性を調べたところこの変異株は同活性を完全に欠いていた。ピルビン酸ギ酸リアーゼは口腔連鎖球菌の発酵転換の鍵酵素であり、S.mutansにとって生理的にも非常に重要な酵素であるので、今後はその遺伝子をクローニングして分子レベルでその性質を明らかにする。
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