歯科放射線診断において日常的に多用されている回転パノラマX線撮影法において、その断層域の位置的関係を明らかにすることは、撮影上、診断上きわめて重要である.そこで臨床場面における診断医の診断能と断層域との関連性を明らかにするため、心理物理学的に解析を行い、従来求められた物理学的断層域との比較検討を行った. 1.方法 (1)断層域内の任意に置かれたファントーム写真像の作成. 回転パノラマX線装置(モリタ製、Vera View)の正中部に、断層測定用ファントーム(レジン封入ヒト顎骨前歯部)を設置し、断層域の中心位から前後的に2-3mm間隔で計11箇所において、各10枚X線撮影した. (2)検出者による検出能実施. 歯科放射線科医5名、本学歯学部臨床生30名を検出者とし、上記ファントーム写真像をランダムに提示し、各写真像のエナメル・象牙境、歯根膜腔、歯髄腔、歯牙形態について視認検出度を5段階にて回答を求めた. (3)同一条件下において、Noise eqivalent passband(Ne)の値をWelanderの方法で計算し、物理学的断層域を求めた. 2.結果 (1)得られた視認能曲線から、視認能が60%であった被写体深さの幅をもって断層域とすると、全体的には、パノラマX線撮影装置Super Veraview(モリタ社製)の前歯部においては、観察対象によって異なるが、断層域の幅は、およそ7から10mmであった. (2)本学歯学部臨床生よりは、放射線科医のほうが断層域の幅が広い結果となったが、歯牙形態の歪みについては、逆に放射線科医のほうが許容範囲は狭い結果となった. (3)同一条件においてNe計算したところ、Ne値が1.5lp/mmである点を限界とすると、Ne計算による同部の断層域は、フィルム面で約7mmとなり、心理物理学的つまり主観的断層域のほうが、幅広いことが分かった.
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