研究概要 |
タンニン酸の幅広い生物学的な作用に着目し,接着処理材への応用を検索することを目的として,その作用時間や濃度の歯質や細菌に与える影響を基礎的に研究すると共に,ボンディング材に配合した場合の抗菌性や歯質接着性について検討した結果,タンニン酸はリン酸及びトリプシンによる象牙質コラーゲンの溶解を抑制し,その作用は処理時間と濃度に依存した。また,タンニン酸はリン酸処理によるコラーゲンの構造破壊を抑制する作用のあることがSEM観察像からも明らかとなった。タンニン酸の口腔レンサ球菌に対する最小発育阻止濃度はS.mutansで300μg/ml,その他の被験菌株では400μg/mlであり,う蝕原因菌として重要なS.mutansに対してタンニン酸は高い抗菌性を示した。また,タンニン酸の石炭酸係数は,S.mutans OMZ 175株で0.6あった。また,静止期にある細菌に対してタンニン酸300μg/mlを15分間作用させることにより,タンニン酸が最も高い殺菌力を示したS.mutans OMZ 175株の生存率は約2%に減少した。唾液処理,未処理の修復材料並びに歯質表面は,タンニン酸処理により負の荷電が増加すると共に,より親水性に変化し,これらの被着材料に対する付着菌数は減少した。 未硬化あるいは硬化直後のボンディング材も特定の細菌に対して抗菌性を有していたが,ボンディング材ヘタンニン酸を配合することによりその抗菌性が強化されることが判明した。タンニン酸配合ボンディング材のエナメル質に対する適合性に優れ,特に象牙質との適合性は極めて優れていることが示された。以上のことから,タンニン酸は窩壁象牙質コラーゲンの抗酵素性を回復,向上させ,修復物表面あるいは歯質の抗菌性を高めることから,修復物中もしくは歯質との界面にタンニン酸が存在することにより二次う蝕の抑制に極めて有効であり,歯質強化,歯質保護の点で意義あるものと考えられる。
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