咀嚼運動は中枢と末梢の感覚受容器からの情報とにより制御されているが、末梢の感覚受容器の中でも、歯根膜中に存在する感覚受容器の咀嚼筋に対する働きは特に重要である。歯周病に罹患すると、この歯根膜中の感覚受容器が破壊されたり、受容器の機能に異常を生じる可能性があるが、現在のところ歯周病の影響についての知見はほとんどない。そこで本研究では、ヒトのオトガイ部をtappingして咀嚼筋に誘発される反射性筋活動が臼歯部の咬合により抑制される現象を利用して、歯周病の程度と咀嚼筋活動との関係を調べ、歯周炎の診断および治癒の判定の際の客観的な指標を見いだすことを目的とした。ヒトのオトガイ部をtappingして咬筋に誘発される反射性筋活動が、臼歯部の咬合により抑制されることが我々の研究で判明している。本研究ではまず、側頭筋の場合についても咬筋と同様に抑制が認められるか否かを調べた。次に臼歯部が歯周病に罹患している患者の場合、反射性筋活動の抑制が認められるか否かを、咬筋および側頭筋で調べた。その結果、正常者では、臼歯部咬合時に側頭筋の反射性筋活動は咬筋の場合と同様に抑制された。また、咬合する大臼歯部歯肉への麻酔後には、臼歯部咬合による側頭筋の反射性筋活動の抑制は認められなかった。歯周病の患者では、高度の歯周病(歯槽骨吸収第4度、動揺度2以上)に罹患した上下顎大臼歯部で咬合した場合には、いずれの患者でも咬筋および側頭筋の反射性筋活動の抑制は認められなかった。これに対し、上下顎大臼歯部の歯周病が中等度(歯槽骨吸収第3度以内、動揺度1以内)の場合には、臼歯部咬合時に咬筋および側頭筋の反射性筋活動は正常者と同様に抑制された。この結果から、咬合する臼歯部が歯周病に罹患していても反射性筋活動の抑制が認められる場合には、正常な機能有する歯根膜受容器が臼歯部歯根周囲に存在していることが示唆された。
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