コンポジットレジンを充填した歯牙で咀嚼すると、一過性の疼痛、いわゆる咬合痛を経験する。これはコンポジットレジン修復に特有のもので、その修復歯の約8〜10%に発生することが報告されている。本研究は、この咬合痛の発生メカニズムを歯液(象牙細管内液)の移動を指標として追求すると共に、その予防法を検討するために行われたものでる。平成5年度においては、まず、コンポジットレジンの直接充填時あるいはコンポジットレジンインレー修復時における窩洞内酸処理の有無や酸処理濃度が歯液移動に及ぼす影響を調べると共に、それら酸処理による窩洞内象牙質の硬度の変化も測定し、歯液移動量との関係を検討した。その結果、窩洞内象牙質を酸処理すると、コントロールのアマルガム充填歯の歯液移動量より有意に大きくなった。しかし、窩洞内象牙質を酸処理しなければ、歯液移動量は少なくなり、アマルガム充填歯と同程度になることが明らかとなった。さらに、この酸処理濃度を5%、20%あるいは40%に上げると、歯液移動量も増加する共に、その際の窩洞内象牙質表層の硬度が無処理の44.8%、36.4%、28.7%に低下した。従って、咬合痛の発生には、酸処理による窩洞内象牙質の脆弱性も関与することが新しく示唆された。このことは平成6年度に行った窩底部のSEM観察においても、窩洞内象牙質を酸処理し修復したCRインレー修復物上に荷重を加えた試料は、脆弱となった窩底部象牙質が修復物で圧縮され、無荷重の試料に比べ間隙が大きくなる傾向として認められた。しかし、この酸処理象牙質面にボンディング材を塗布し硬化させれば、そのCRインレー修復物上に荷重を加えても間隙の発生はほとんど認められなくなり、歯液移動量も少なくなることが明らかとなった。
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