研究概要 |
床下粘膜を健康な状態に維持することは,咀嚼機能・審美性の回復とともに全部床義歯補綴の重要な目的であり,圧迫を受けやすい部位に関する情報が,機能的義歯製作の観点から必要となる。本研究は,荷重前後の床下粘膜の末梢血液循環の変化を,粘膜の特に薄い口蓋正中部を中心にレーザードップラー血流計を用いて計測し,さらに当教室で従来より行なわれている超音波診断装置および粘弾性測定装置による計測を同一部位に加え,義歯床支持粘膜の分類(一次圧負担域・二次圧負担域・リリーフ域)に科学的根拠を与えようとするものである。 本研究においては,実験義歯が血流量・床下粘膜厚径・粘弾性値測定のテンプレートを兼ねているため,実験系における比重が非常に高い。そのため実験義歯は以下の点に注意して慎重に製作した。前歯部からプローブの挿入が可能となるように臼歯部のみに咬合堤を付与し,床用レジンは適合性に優れているイントプレスを用いた。荷重量を規定できるように下顎実験義歯の左右第一大臼歯相当部に小型荷重センサを設置し,センサの受圧部のみで上顎実験義歯と咬合するように調整した。また,粘膜表層の血流量は温度変化に大きく影響されるので,実験義歯口蓋部に温度センサを組み込み粘膜表面の温度をモニタリングできるようにした。同一部位を繰り返し計測できるように上顎実験義歯の各計測部位にはプローブホールを設けた。この実験義歯を用いて測定をおこなった結果,安静時粘膜厚径に対する粘膜沈下量の割合(粘膜沈下率)が,12.7〜15.1%と他の部位より高い値を示した口蓋正中部を中心とする範囲で,荷重前後の血流量の変化が大きい傾向が示された。また,この範囲において除重時の粘膜変位の変位回復比が他の部位より小さいことが明らかになった。これらの結果は義歯機能時にリリーフすべき範囲と量を決定する判定基準となる。
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