本研究では、高強度多孔質球状フィラーと無機骨格を主鎖にもつ多官能性シロキサンオリゴマーとが硬化により相互に侵入した網目構造をもつ新しい複合材の可能性を検討した。その結果、本複合レジンは従来のコンポジットレジンと異なり、表面処理が不要なためフィラー/レジン界面の問題がなく、優れた耐摩耗性、機械的性質および耐水耐久性を示すことがわかった。圧縮強さは、従来の複合レジンに比べ、1〜2割向上した。曲げ強さは、多官能性モノマー処理では従来の複合レジンと同等の強度であったが、多官能性シロキサンオリゴマー処理では、約4割向上した。いずれも従来の複合レジンに比べ、曲げ弾性率の低下は認められず、強度と靭性を兼ね備えた材料であった。特に耐摩耗性は、従来のレジンに比べいずれも良好な値を示した。ポリメチルメタクリレートの摩耗量を100とすると、従来の複合レジンは32〜48、本研究の多官能性モノマー処理では18〜33、多官能性シロキサンオリゴマー処理では、6という値を示し、耐摩耗性が飛躍的に改善できた。本研究の複合レジンの発展的研究としては、薬物徐放性材料か得られる点である。本フィラーの内部にフッ化カルシウムや歯周病予防薬などを挿入し、マトリックスレジンの架橋度を制御することにより、治療および予防材料などへの応用が期待できる。 本研究の考えを一歩進めて、硬さの性質を表す剛直な無機高分子とマトリックスレジンの有機高分子とも分子オーダーで複合(混合)させた、無機-有機高分子複合材という新しい概念へと研究を発展させた。このような概念はこれまで報告がなく、本研究者らが始めてであり、歯科用新材料としての有効性を検討した。その結果、従来の多官能性モノマーを用いた架橋構造の増加のよるレジンの強化とは異なり、強度と靭性を兼ね備えた強化レジンを得ることができた。
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