研究概要 |
唇顎口蓋裂者に対し、北海道大学歯学部附属病院では、言語発達を考慮して1.5〜2歳時にPushback法を用い口蓋形成術を行い、混合歯列前期から矯正治療を開始して咬合関係を確立するという方針で治療を行ってきた。しかし、混合歯列前期の段階で歯牙喪失または上顎歯列弓の著しい狭窄により乳臼歯部の咬合が得られていなかった症例が少なからずみられ、このような咬合状態が、その後の顎発育ならびに顎関係の調和に阻害要因として作用することが推測された。そこで、片側性完全唇顎口蓋裂症例を対象として、矯正治療開始時に乳臼歯部の咬合が確保されていなかった症例(乳臼歯咬合不良群)と確保されていた症例(乳臼歯咬合良好群)とに分け、乳臼歯部の咬合状態が、動的矯正治療中の臼歯部咬合状態の推移ならびに上下顎の成長変化に及ぼす影響ついて比較検討し、以下の結果を得た。 1.両群間で、上顎の前後的,垂直的な劣成長の程度に差はなかった。2.乳臼歯咬合良好群では、矯正治療期間中に安定した臼歯部咬合が確保されて推移し、大部分の症例で下顎は後下方または下方へと成長し、顎関係の改善が得られた。3.乳臼歯咬合不良群では、大部分の症例で安定した臼歯部咬合が確保されずに推移し、下顎は前下方または大きく下方へ成長し、顎関係の改善は得られなかった。これらの結果より、乳臼歯咬合の確保は、矯正治療期間中の安定した臼歯部咬合の維持につながり、下顎の成長を劣成長のある上顎に調和するように効果的にコントロールして、顎関係を改善するうえで重要な役割を果たしていることを示している。それ故、上顎歯列弓の狭窄により、将来、乳臼歯部の咬合が得られないと判断される症例に対しては、乳歯列期から積極的に咬合異常の改善をはかり、乳臼歯部の咬合を確保することが顎関係の改善にとって極めて重要であると考えられる。
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