研究概要 |
末期癌患者,高齢者等感染防御力の低下している患者に発生する各種感染症の治療において,抗生物質による化学療法のみでは充分な治療効果が得られない場合が多い.細菌感染に対する生体の防御機構においては、好中球の産生する活性酸素種が殺菌の主体として重要な役割を果していることは広く知られている.しかしながら従来,好中球機能と抗生物質との相互作用,そりわけ活性酸素産生能に対する影響については充分な検討がなされていなかった.そこで本研究では,抗生物質の健常人末梢血好中球のスーパーオキドアニオンラジカル(O_2・-)産生能に及ぼす効果について検討し,さらに,口腔癌,下顎骨骨髄炎患者の末梢血好中球O_2・-産生能の測定し,健常人と比較検討した.O_2・-産生の測定はCLA依存性化学発光法を用いて,ヒドロキシルラジカル(HO・)の測定はESRスピントラップ法を用いてそれぞれ行った.その結果,以下の結論を得た. 1.好中球のO_2・-産生能増強効果を有する抗生物質はOZ刺激においては7種類,PMA刺激の場合は六種類であった.また,HX-XOD反応系におけるO_2・-生成の増強効果ならびに抑制効果は各々3種類の抗生物質に認められた.しかしながら,HOの生成に影響を及ぼした抗生物質は認められらかった.2.口腔癌患者,慢性下顎骨骨髄炎患者,放射線性下顎骨骨髄炎患者の末梢血好中球O_2・-産生能は健常人と比較して低下していた.さらに,口腔癌患者中,MRSA感染症に罹患した患者では非感染の口腔癌患者に比較して末梢血好中球のO_2・-産生能は低値を示した.3.以上の結果は頭頸部領域の重篤な感染症に罹患している患者の一次的生体防御能は明らかに低下していることを示している.以上のことより,一次的生体防御能において好中球のO_2・-産生能は重要な因子であることが示唆された.さらに,重篤な感染症治療における抗生物質の投与に際して,好中球O_2・-産生能に対する効果をその選択基準の一因子として用いることが必要であると考えられた.
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