骨に微小電流を流し適度な刺激を与えることによって、骨の形成をはかることが知られているが、この作用を利用し口唇口蓋裂患者の顎裂部に骨を形成させることによって同患者の咬合形成をはかることを目的とした研究である。これまで顎裂部に自家腸骨海綿骨を移植し同部へ歯科矯正的に歯牙を移動したり、骨移植後の骨架橋部にインプラント体を埋入することによって咬合の形成に努めてきた。しかしながら、裂の小さな症例に対しては自家骨を移植することなく顎裂を閉鎖したり、患者の下顎骨から海綿骨を採取し顎裂部へ移植する方法で骨架橋の形成をはかってきたが期待どうりの骨架橋の得られる確率は低かった。口唇口蓋裂患者にとって最終的な咬合を形成するにあたり、インプラントが最良である場合、下顎骨から骨を採取し顎裂部へ移植すると同時にインプラントを行なえば手術を全て同時に口腔内で行なうことができるため腸骨採取部への傷(瘢痕)も形成されず、患者にとってより良い方法といえる。これを実現させるために、骨組織の持つインピーダンスより高い電位をチタン製のインプラント体に与え、インプラント体から骨組織に微小な電流が流れるようにすることによって、インプラント体周囲の骨形成細胞がより一層活動できるように補助することができ、骨架橋形成と共にインプラント体を正着させる方法ではないかと考えた。現在、庄子哲雄工学部教授と共にチタン製インプラント体自体へ電位を付与し、どの程度の電位の付与が生体に至適な電流を流させるのかを検討しているところであり、その後動物実験を行なう予定である。
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