研究概要 |
口腔の前癌病変とされる白板症の悪性潜在能のより客観的かつ定量的な評価法を確立することを目的に本研究を行った。臨床所見のうち悪性化との関連が深いと考えられる色彩所見を非接触型色彩色差計を用いて測定記録し病理組織学的所見と対応させて悪性潜在能との関連を追究した。また細胞骨格を構成する中間径フィラメントの一種であるサイトケラチンCKの発現性と病理組織像における上皮の異型度を対比させてその客観的評価を試みた。 色彩計測データをもとに、健常粘膜色を基点にとり白板症、扁平上皮癌の色差をL^*a^*b^*表色系で表すと、明度成分L^*は白板症で増加し扁平上皮癌では減少するものが多かった。また色度成分a^*,b^*はいずれも白板症で減少し扁平上皮癌では増加する傾向が認められた。病理組織学的な上皮の異型度の違いによる色差の分布をみると、異型度の高度な白板症ではL^*が減少しa^*,b^*ともに増加するものが多く、これは臨床的には紅斑の混在を意味していた。本色彩色差計を用いた色彩計測により口腔病変の色彩を定量的に表示できるようになり病変間の色彩比較が可能となった。 抗ヒトCKマウスモノクロナール抗体を用いて舌白板症のパラフィン包埋試料におけるCK発現性を検索し上皮の異型度と比較した。CK10は正角化を示す白板症の角質層において、またCK13は異型度の低い白板症の棘細胞層において陽性であった。しかし異型度が高くなるに従いCK10,CK13ともに発現性は低下した。CK高分子量(CK1,5,10,14)は上皮脚の形態が不整な部位において棘細胞層に高い染色性を示した。CK19は上皮の基底細胞層に陽性で異型度が高くなると基底細胞層より上方においても陽性反応が認められた。以上のごとくCKの発現性と異型度との間には関連性が認められ、悪性潜在能の指標としてCKの発現性が有用であることが、示唆された。
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