研究概要 |
本研究においては、従来より当教室において分離・培養を行っているヒト唾液腺癌細胞株(HSG細胞)のうち、ヌードマウス背部皮下に移植した際、他の臓器及びリンパ節に転移を全く示さない細胞クローン(HSGc)を分離することより開始し、以下の結果を得た。 1.HSGc細胞をN-methyl-N-nitrosourea(MNU;50,100,200μg/ml)にて処理することにより、形態学的にHSGc細胞と異なった細胞が出現することが明かとなり、かつ出現頻度は処理濃度及び回数に依存的であった。2.形態的にHSGc細胞と異なった細胞クローン(Gc2-100Cl-1)をヌードマウス背部皮下に移植することにより、肺、肝臟、脾臟、膵臟、腋窩リンパ節に転移が認められた。これら種々の臟器をin vitroにおいて培養することにより、転移細胞クローンを分離した。3.DNAフィンガープリントによる解析から、転移細胞クローンはHSGc細胞から派生していることが確認された。4.転移細胞クローンをヌードマウス背部皮下に移植した後、種々の臟器への転移能を検索したところ、すべてのクローンにおいて同程度の転移率であった。しかし、各細胞クローンでの転移に関する臟器特異性は認められなかった。5.HSGc細胞と転移細胞クローン間でのプラスミノーゲン・アクチベーター(tPA,uPA),コラゲナーゼ、及びそのインヒビターであるtissue inhibitor of metalloproteinase-1(TIMP-1)の発現を比較したところ、転移細胞クローンではtPA及びコラゲナーゼ発現の亢進とTIMP-1発現の低下が認えられた。以上の研究結果より、当該年度の目標である転移能を有しないヒト唾液腺癌細胞から種々の臟器、リンパ節への転移を起こした細胞クローンのin vitroでの樹立は達成されたものと考える。
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