研究概要 |
平成6年度は前年度の研究に症例を加えてras p21蛋白の発現とras遺伝子の変異について検索するとともにEGFR,c-erbB-2蛋白の発現およびこれらをコードするc-erbB-1,c-erbB-2遺伝子の変異についても検索した。ras p21蛋白の発現に関しては扁平上皮癌、唾液腺腫瘍いずれの症例においても腫瘍細胞に反応を認め、その発現の亢進がみられた。遺伝子変異についてはH-ras,K-ras両遺伝子についてTGGE,SSCP両電気泳動法により検索したが、平成6年度検索例では変異は見い出されなかった。EGFRに対する免疫組織学的検索では扁平上皮癌10例中全例において強い発現をみたが、腺様嚢胞癌4例全例においては陰性を示した。一方、c-erbB2蛋白は扁平上皮癌10例中3例のみで陽性を示したのに対し、腺様嚢胞癌4例では全例において強い発現をみた。これらの結果はEGFRが扁平上皮癌でc-erbB-2蛋白が腺癌で発現の亢進があるという他臓器における結果と一致した。c-erbB1,c-erbB2両遺伝子の増幅についてはサザンハイブリダイゼーション、オートラジオグラフィに続くDensitometerを用いた測定法により検索した。c-erbB-1の増幅はHSC-2,HSC-3,HSC-4,Ca9-22,KBの口腔の扁平上皮癌由来細胞株と扁平上皮癌10例中3例で認められたが、唾液腺由来の細胞株Sal-1および腺様嚢胞癌4例いずれでも認められなかった。また、c-erbB-2の増幅はいずれの培養株、扁平上皮癌、腺様嚢胞癌でも認められなかった。臨床像との関連についてはc-erbB-1の遺伝子増幅のみられた3例の扁平上皮癌の症例はいずれもStageIであり、EGFRの遺伝子差異は癌発生の早期に関連することが示唆された。
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