口腔の二大疾患であるう蝕と歯周病は年齢によって発生状況に差が認められる。このことから、これらの病因に対する宿主の反応性が加齢と共に変化していることが推測される。 唾液は口腔環境を構成する重要な因子の一つであるが、その性質が加齢と共に変わるとすれば、これがう蝕や歯周病に対する宿主の反応性の差につながる可能性がある。 そこで、本研究では遺伝的および環境的条件を整えやすい実験動物を用い、その唾液タンパク質成分が同一個体で加齢と共に変化するかを調べた。雄のウィスター系ラットの腹腔に塩酸ピロカルピンを注射し、この刺激によって分泌された混合唾液を採取して、タンパク質組成を同一個体の離乳直後から成獣に至るまで加齢と共に検索した。その結果、ラットの唾液は加齢による体重の増加と共に、分泌量のみならずタンパク質濃度が増加することが明らかになった。さらに、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて分析したところ、タンパク質の泳動パターンに変化が生じていることが示された。すなわち、加齢と共に増加するものと減少するものの存在が明らかになった。そこで、特に増加が著明であった30Kdのタンパク質を2次元電気泳動法等を駆使して単離した後、アミノ酸組成と一次構造を分析した。その結果、このタンパク質はDNA分解酵素であることが明らかになった。 唾液中のDNA分解酵素の濃度ならびに絶対量が加齢と共に増加することの意義については不明であるが、本研究によってラットの唾液タンパク質成分は加齢と共に変化していることが確認された。このような唾液の組成変化とう蝕や歯周疾患の病因に対する宿主の感受性の変化の関連について、今後さらに研究を継続する予定である。
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