正常咬合および骨格性下顎前突を有する成人男子を被験者として左側にてチューインガムを咀嚼させ、筋電図と下顎運動を同時記録した。筋電図はオトガイ舌筋、側頭筋前部、顎二腹筋前腹、下唇部口輪筋より記録し、特にオトガイ舌筋については、新たに開発した表面電極を使用し、ディジタル筋電信号データを得た。また、下顎運動については、下顎切歯点の運動軌跡をマンディブラキネジオグラフにて記録した。また、正常咬合者については、チューインガムを噛まずに、30サイクル/分の周期的な顎の開閉運動も行い、同様に記録した。 正常咬合者に関しては、オトガイ舌筋の筋活動の平均的パターンは顎二腹筋前腹ならびに下唇部口輪筋と協調性を持っていた。この3被験筋肉はいづれも開口相にて主要な活動を示し、筋活動開始時刻は、まず顎二腹筋が筋活動を開始し、つづいて口輪筋が、最後に舌筋が開始するという順番であった。オトガイ舌筋の活動終了時刻も顎二腹筋より後であった。また、オトガイ舌筋の筋活動開始および終了時刻は、顎二腹筋や口輪筋の活動開始および終了時刻と高い相関性を持っていた。さらに、チューインガムを噛まずに周期的な顎の開閉運動を行ったときには、これらの被験筋肉は、ほとんど筋活動を示さなかった。一方、骨格性下顎前突者に関しては、チューインガム咀嚼時に、正常咬合者にみられたような、舌筋、口輪筋、咀嚼筋の筋活動、ならびに下顎運動との間の時間的協調性は認められなかった。 以上の結果より、正常咬合者においては、チューインガム咀嚼時におけるオトガイ舌筋活動は、側頭筋前部、顎二腹筋前腹、下唇部口輪筋の筋活動、ならびに下顎運動との間に、強い時間的協調性が有り、骨格性下顎前突者においては、そのような時間的協調性がみられないことが示唆された。
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