歯科矯正臨床において、舌の機能異常が一因と考えられる不正咬合を治療することがある。その治療の補助的手段として、舌の機能訓練が行われている。しかし、正常咬合者や不正咬合者における発音や嚥下にともなう舌運動については、いまだ明確ではない。 そこで平成5から7年度に渡り、舌運動を口蓋に装着した電極への舌の接触・非接触で見るダイナミックパラトグラフィーを用いて、舌運動と顎顔面形態との関連性について臨床的指針を得るため、以下の研究を行った。 本学学生より種々の咬合を有する71名(男35、女36)を選出し、側方頭部X線規格写真の撮影、歯列模型の作製、および、嚥下時と発音時のダイナミックパラトグラムの記録を行った。それをもとに、嚥下に伴う舌運動時間の個体差と経日変動を分散分析(男女それぞれ7名に対して3日間)で、顎顔面形態とどのような関連性があるかを単相関分析、および重回帰分析で調べた。 その結果、嚥下時の舌の口蓋接触時間に有意な個体差が認められ、嚥下時の舌の口蓋接触時間と下顎の回転に関する計測項目(下顎角、下顎下縁平面傾斜角、下顎下縁平面と大臼歯のなす角など)間、および、上顎前歯の唇舌側傾斜間に有意な単相関が認められた。また、舌の口蓋接触時間を従属変数、角度・距離計測数項目を独立変数とする重回帰式を得た。このことは、嚥下時の舌運動に伴う舌の口蓋への接触時間の相違が骨格形態と深い関わり合いがあることを示唆するものである。 また、発音に伴う舌運動に関してはパラトグラフ上で視覚的に個体差は認められるが、有意か否かの判定は行えなかった。その客観的な判定方法の選択も今後の課題である。
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