研究概要 |
1)ヘテロ原子として流黄を選び,流黄原子による有機金属への高い配位能に着目し,金属とのキレーションによる不斉反応場を構築し,不斉反応の開発,2)流黄原子のキラリテイーに着目し,スルフイニル基の不斉補助基としての機能とスルフイニル酸素原子の有機金属への配位能を活用して,反応基質のキレーションによる不斉反応場(不斉空間)の構築による不斉誘起反応の開発,を目的に研究を行い,以下の成果が得られた。 カンファーを出発原料に用いて,そのボルニル骨格の2-exo位にアルコール基(酸素原子)を導入し,さらに3-exo位に流黄原子を導入した各種β-オキシスルフイド,β-オキシスルホキシド類を合成した。配位する有機金属としてジエチル亜鉛を選び,ベンズアルデヒドへのエチル化を検討し,最高不斉収率82%でフェニルプロパノールが得られた。これら合成したスルフイド,スルホキシドのうち,一般にスルフイドのほうが高い不斉誘起がみられ,堅固(rigid)なボルニル骨格と流黄原子の両者により高い不斉空間を形成したと考えられる。本反応は,いまのところ触媒効率がやや低く,20モル%で最高不斉収率が77%e.e.であり,2-exo位への他のヘテロ原子(流黄やリン)の導入とアルキルチオ鎖のアルキル置換基の工夫が今後の課題となった。 ヘテロ原子の配位能を活用するもう一つ研究課題として,スルフイニル基のキラリテイーを活用する不斉付加反応を検討した。スルフイニル基(スルホキシド)を不斉補助基に用いる不斉反応は,α-スルフイニルカルボニル化合物への不斉求核付加反応やα,β-不飽和スルホキシドの二重結合部への還化付加反応が広く展開されているが,β-スルフイニルカルボニル化合物についての不斉反応は皆無である。遷移金属を用いて,β-スルフイニルカルボニル化合物への不斉求核反応を検討した。コンフォーメーションの固定化が期待できる5員複素芳香環に直結するアルデヒドを設計した。5員複素芳香環化合物として,フラン環とチオフェン環を選び,アリル金属によるアルデヒド基へのアリル化を検討したところ,特に,3-スルフイニルフルフラール,2-スルフイニル-3-チオフェンアルデヒドでは高い不斉誘起(最高90%e.e.)が観測された。本反応では,ルイス酸の種類によりジアステレオ選択性の逆転がみられる興味ある知見が得られた。
|