研究概要 |
報告者は光学活性な1(>95% ee)の簡便な合成法を既に開発している。今回、1およびその誘導体の開環反応を鍵工程とする生理活性物質の合成を検討した。1は潜在的対称性を持つため保護基の付け替え操作、引き続く位置選択的な開環により、お互いエナンチオマーの関係にあるキラルシントン2および3に導けると予想できる。この考えに基づき1を出発物質とする4および5の合成を実施した。4は抗腫瘍性ジペプチド、ベスタチンの、また5は強力なペプシン阻害作用を持つペプチドの鍵合成中間体である。また5の構造を持つ異常アミノ酸は強力なレニン阻害剤であるアパチニンGの構成成分であることも知られている。4の合成はアジリジン環の酸素求核剤によるS_N2型開環反応を鍵工程として、1から12工程、総収率35%で達成した。一方、5はアジリジン環のβ-アミノエポキシドへの変換、さらにエポキシドのシアニドアニオンによる開環反応を経て、1から13工程、総収率18%で得た。またアジリジン環を酸素求核剤のみならず、窒素求核剤によっても位置および立体選択的に開環することができた。これにより1を出発物質とするトレオ-1,2-ジアミン誘導体のenantiodivergent合成法も開発することができた。
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