研究概要 |
細胞内タンパク質のりん酸化は,細胞外の情報を細胞内に伝える情報伝達の役割をはじめ,細胞周期のような自律的な細胞機能の制御において重要な役割を果たしている。がん細胞や,アルツハイマーなど脳疾患においてキナーゼ活性の異常が発見されており,キナーゼ活性の制御は新しい治療薬の標的となる期待を集めている。そこで本研究は,細胞周期を制御する類似キナーゼ群の中の特定のサブタイプを認識し,特異的な阻害活性を発現する薬物の開発を目的とした。 平成5年度は右図のような各種の化合物を合成し、CDC2キナーゼによる燐酸化反応の阻害活性を調べた。アフリカツメガエルの受精卵から得られる粗精製物を用いた反応系内には各種のキナーゼが混在しているので、この反応の阻害は化合物の非選択的な阻害活性の指標となる。一方、粗精製物から精製された活性化CDC2キナーゼ・サイクリン複合体に対する阻害活性はこの酵素に対する選択的な阻害活性の指標と考えられる。表1に示されるように化合物2(X=(CH_2)_3NM_<e2>)は精製酵素にのみ阻害活性を示している点で、CDC2キナーゼに対して選択的であることが分かった。しかし、3(X=(CH_2)_3NM_<e2>)と4(X=(CH_2)_3NM_<e2>)は粗精製物を用いた反応でも非選択的な阻害活性を示した。現在、疑似基質部分としてAc-Cys-Pro-Lys-Lys-NHMeを含む化合物5(X=H,X=(CH_2)_3NM_<e2>)の合成に成功し、それらのキナーゼ阻害活性について検討中である。
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