研究概要 |
本研究では、生薬が生物(の遺骸)を基原とする医薬品であるという認識に立ち、その遺伝子型を直接的に分析すること、すなわち遺伝子塩基配列の多型を検出すること(DNAプロファイリング)による生薬鑑別法の確立を目的として、そのための基礎的検討を実施した。 まず、制限酵素断片長多型(RFLPs;DNAを特定の制限酵素を用いて切断したときに生じる断片の長さと数に関する多型)分析法を適用して、種々の薬用植物の種内または種間に存在する変異の解析を行なった。まず、ヅボイシア属植物Duboisia myoporoides,D.leichhardtiiおよびそれらの種間雑種について、イネのribosome DNAをプローブとするRFLP分析を行ない、この方法がこれら3種の鑑別に極めて有効であることを明かにした。さらに、日本各地に自生するミシマシコの地理的変異の解析にこの方法を適用し、我が国に分布するミシマサイコのうちで、北九州・山口に自生するものが一つの分類群を形成することを立証した。また、生薬の品質との関連で問題になっているオケラ属植物の種内および種間変異についての解析を行ない、ホソバオケラの含有成分に関してみられる変異がオオバナオケラやオケラとの交雑によるものではなく、ホソバオケラの種内変異であることを明らかにした。これらの結果は、遺伝子塩基配列の多型を基礎にしたDNAプロファイリングが薬用植物の変異の解析に極めて有効な手段であることを示している。 この成果を基礎にDNAプロファイリングによる新しい生薬鑑定法の可能性を検討した。生薬「当帰」からDNAを調製したところ、その基原植物トウキからのDNAに比較して著しい断片化が生じており、RFLP法を適用出来ないことがわかった。そこで、PCR法によって特定の遺伝子の短い領域を増幅し、その塩基配列の多型を直接または間接に比較することによって生薬の鑑別が原理的に可能であることを明かにした。
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