申請者は前周期遷移金属錯体特にジルコノセン-ブテン錯体の特徴、すなわち酸素との高い親和性および不飽和化合物とジルコノセン-ブテン錯体中のブテンとの容易な配位子交換を利用し新規反応の開発を行ってきている。それらの研究の中でビニルシクロプロパン誘導体の反応性の系統的な検討を行いシクロプロパン環部における炭素-炭素結合の位置選択的な開裂がη3-πアリルジルコノセン錯体を経由して起こることを明らかにしている。それら一連のビニルシクロプロパン誘導体とジルコノセン-ブテン錯体の反応結果、おわびη3-πアリルジルコノセン錯体中間体の熱による異性化を利用しステロイド類、特に活性型ビタミンD誘導体の側鎖の高立体選択的構築を行った。本ステロイド側鎖の立体選択的合成を通じて、原料となるシクロプロパン化合物の合成の際の不斉Simmons-Smith反応でdouble stereodifferentiationにもとづいて立体選択的にシクロプロパン環がステロイド側鎖に導入できることを見出している。さらに、申請者は、オルト位にアルコキシメチル基を有するスチレン誘導体とジルコノセン-ブテン錯体の反応を検討し、新規なジルコノセン-ブテン錯体の反応性を見出した。その結果、ベンジルジルコノセン誘導体が非常に温和な条件のもと得られてくることを明らかにした。また、同じ反応を触媒量のジルコノセン-ブテン錯体を用いて行うと全く異なる反応が生起することを見出している。上記の結果を基に、ベンジルジルコノセン誘導体を用いてステロイド骨格の効率の良い構築について検討した。現在のところ、ステロイド骨格の構築については反応における効率的な立体化学の制御が必要であるが、モデル反応においてABCD環の構築に成功している。
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