大腸菌には、強力な突然変異、致死作用を有するアルキル化剤によるDNA損傷の主生成物の一つ3-メチルアデニンを除去する2種類のDNA修復酵素、3-メチルアデニンDNAグリコシラーゼIとIIが存在するが、両酵素は、分子量、基質特異性、熱安定性、適応応答の点で異なっている。本研究では、X線結晶構造解析法でこれらの3次元構造を決定し、両酵素のアルキル化DNA塩基の認識機構、酵素反応機構を原子レベルで解明することを目的とし、以下の研究成果を得た。 <3-メチルアデニンDNAグリコシラーゼII〉 まず、昨年度作成した2.8A分解能の電子密度図(4種の重原子誘導体を用いた多重同型置換法に基づく)をもとに本蛋白質の3次元立体構造モデルを構築した。引き続き、2.3A分解能データを用いてプログラムX-PLORで構造の精密化を行い、R値20.6%を得、正しい構造が得られていることがわかった。本グリコシラーゼは、3つのドメインから構成されている。枯草菌や酵母の3-メチルアデニンDNAグリコシラーゼのアミノ酸配列と相同性の高い領域すべてが、ドメイン2と3の間の溝に面していることから、この溝が活性に重要な部位と推定された。現在、この付近で3者間で保存されている残基の変異遺伝子を作成、アルキル化剤に対する感受性の変化を調べているが、ドメイン2と3の溝深くにあるAsp238が活性残基であることが示唆されている。 <3-メチルアデニンDNAグリコシラーゼI> X線解析に適した結晶を作成するため結晶化条件を種々検討したところ、いくつかの条件で結晶を得たが、X線回折実験を行うには現在のところまだ小さい。
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