経皮吸収促進剤の適用によって惹起される皮膚構造の微細な変化を、皮膚鉛直断面の形状をフラクタル図形として捉えることによって数量化し、吸収促進剤の皮膚刺激性を客観的かつ定量的に評価することを試みた。 経皮吸収促進剤としてd-リモネンとエタノールを含有するヒドロゲルを作成し、ヘアレスラットの腹部皮膚に適用した。経時的に適用部位の皮膚を摘出し、グルタルアルデヒドおよびオスミウム酸で固定したのち、微細構造を保持できる条件下で乾燥した。皮膚鉛直断面の形状をモニタマイクロスコープおよびイメージスキャナを介してコンピュータに入力し、正方形被覆法に基づくフラクタル解析によってフラクタル次元を決定した。また、皮膚の湾曲を平滑化したのち、垂直方向に拡大して得た波形についても同様の解析を行った。さらに、ヒドロゲルを適用後の皮膚のフラクタル次元と適用部位の組織学的検査との相関性について検討した。 摘出皮膚をグルタルアルデヒドで処理すると皮膚内のタンパクが固定され白色となる。次いでオスミウム酸で処理すると脂質が固定され黒色となる。この境界の形状は典型的なフラクタル性を示し、その複雑さの度合いを非整数のフラクタル次元として数量化できることが明らかにされた。リモネンを含有するヒドロゲルを適用した場合、リモネン濃度の増大に伴いフラクタル次元は低下する傾向を示した。これはリモネンの適用により皮膚構造が変化し、その複雑さが低下することを意味する。また、ゲル適用6時間後のフラクタル次元と皮膚刺激性スコアとの間には良好な相関性が認められた。以上より、経皮吸収促進剤の新規刺激性評価法として、皮膚のフラクタル解析の有用性が示唆された。
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