アルコールや脂肪酸を初めとする両親媒性アルキル化合物の細胞機能修飾機構を明らかにすることを目的として、皮膚ならびに小腸刷子縁膜を対象とし、これらの化合物による皮膚角質層脂質及び小腸刷子縁膜脂質二重層の細部における流動性変化を蛍光プローブ法によって観察するとともに、薬物の膜輸送ならびに膜酵素系に対する影響との関係について検討を行った。まず、親水性の異なる薬物の経皮吸収に対する種々のアルキル化合物の促進作用をin vitroにおいて検討し、これまでにすでにアルキルアルコールが、その炭素数に依存して、5-フルオロウラシル等の親水性薬物の経皮吸収を顕著に亢進することを明らかにした。また、同じ濃度域で、アルキルアルコールが角質層脂質よりなるリポソームの流動性を増加させること、増加は、脂質二重層の中央部付近で生じることより、アルコールの作用機構として角質層脂質二重層の中央部付近の流動性の増大が考えられることを明らかにした。 一方、ウサギ小腸刷子縁膜の膜脂質二重層の流動性に及ぼす両親媒性アルキル化合物の影響について観察を行うとともに、膜酵素系に及ぼす影響についても観察を行い、両者の関係について定量的な考察を行った。そのため、小腸刷子縁膜の膜酵素系としてMg^<2+>-ATPaseとアルカリホスファターゼをとりあげ、検討を行った。その結果、アルキルアルコールや脂肪酸が小腸刷子縁膜のMg^<2+>-ATPase活性を阻害することを明らかにするとともに、このうちアルコールについては、酵素活性の阻害率と脂質二重層の中央部付近の流動性の上昇との間に定量的な相関性があることを明らかにした。すなわち、炭素数4〜7のアルキルアルコール及びベンジルアルコールによって生じた脂質二重層の中央部付近の流動性の増加率とMg^<2+>-ATPase活性の減少率との間には、アルコールの種類にかかわらず、共通の相関関係が存在することが明らかとなった。一方、アルコールは表在蛋白質であるアルカリ性ホスファターゼの活性には影響を及ぼさず、このようなアルコールの膜酵素系による作用の違いは膜酵素の膜脂質二重層中での存在部位の違いによって説明できることがわかった。
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