アルコールや脂肪酸を初めとする両親媒性アルキル化合物の細胞機能修飾機構について皮膚ならびに小腸刷子縁膜を対象として検討を行った。皮膚角質層脂質成分より調整したリポソームのゲル液晶相転移温度のpH依存性を観察したところ、pH6.2から4.0の間で相転移温度が顕著に低下することがわかった。また、この低下は脂質層中の遊離脂肪酸パルミチン酸が非解離型へ変化することに伴い運動性が増加することによって生じることがわかった。in vitroにおいてフェノールのモルモット背部摘出皮膚における透過性を観察したところ、弱酸性条件下で透過がより速やかであることがわかった。このことは、実際の皮膚においても弱酸性条件下では脂質層の流動性増加により薬物の透過が亢進していることが示唆された。リポソームにおける実験結果は、さらにシス型長鎖不飽和脂肪酸と同様に薬物経皮吸収に対する促進効果が知られている飽和脂肪酸ラウリン酸が、弱酸性条件ではシス型長鎖不飽和脂肪酸と同様な脂質層流動性増加作用を生じることを示し、これが生理的条件では弱酸性状態にある皮膚における薬物吸収に対する促進効果の原因となっている可能性が示唆された。 一方、ウサギ小腸刷子縁膜Mg^<2+>-ATPase活性に及ぼすアルコールの影響と膜流動性に及ぼす影響との関係についての9種のアルコールについての検討を行った。炭素数4〜11の直鎖アルキルアルコールとイソアミルアルコール及びベンジルアルコールについての実験結果は、Mg^<2+>-ATPase活性の阻害率と膜流動性深索蛍光プローブ、ジフェニルヘキサトリエンの小腸刷子縁膜における蛍光異方性の減少率とが、検討したアルコール全てに共通に相関することを示した。このことにより、これらのアルコールが共通して刷子縁膜の流動性を増大することによってMg^<2+>-ATPase活性を阻害することが強く示唆された。
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