研究概要 |
各種内因性生理活性ペプチドが,医薬品として繁用される様になって久しい.これらは正常時には,体内に一つの恒常系を持ち,一定のリズム(日内変動)で分泌と消失を繰り返している.従って生理活性ペプチドが医薬品として使用されるときには,これら内因性物質の動向を考慮した投与計画を設計しなければならない.私たちは前年度,サケ・カルシトニンの最適投与計画には,内因性カルシトニン,PTHの変動を考慮した投与設計が必要であることを明らかにした.本年度は,主として尿崩症の治療薬であるアルギニンバソプレッシン(AVP)について,その最適投与設計と生体恒常系との関連を検討した.まずAVPを投与後の生体内動態を測定するとともに,薬理効果として,反応機構の異なる2種の薬効--平均動脈血圧(MAP)変化と尿中ナトリウム濃度変化を経時的に測定した.その結果,生体内で分泌されるAVPの日内変動は,当初考えていたよりも小さいが,カルシトニン同様,外的に投与されたAVPの薬効および生体内動態は,生体恒常系の影響を強く受け,従来の薬物速度論によって投与計画を算定することはきわめて危険であることを初めて明らかにした.私たちはこれに代わるものとして,薬効を指標とした,投与計画,bioavailabilityの算定法を新たに提出することとした.すなわち,以下の7点を明らかにすることで,薬効効果のみからAVPの最適投与計画を設計した.(1)AVPによる平均動脈血圧変化は血漿中AVP濃度と直接的に関連していること,(2)血漿中AVP濃度は,速度論的なモデルを用いれば,MAPから算定できること,(3)このモデルを用いればAVPを経口投与後あるいは鼻腔内投与後のbioavailabilityを推定可能であること,(4)AVPによるもう一つの薬理効果である尿中ナトリウム濃度変化は,血漿中AVP濃度と直接的には関連せず間接効果であること,(5)この間接作用には腎ナトリウム調節系が関与していること,(6)この尿中ナトリウム調節系の数学的モデル化は可能であり,このモデルを介して薬理効果を血漿中AVP濃度と関連させることができること,(7)このモデルを用いればAVPを経口投与後のbioavailabilityを正確に推定可能であること.このように,私たちの提出した方法は,薬理効果のみからbioavailabilityの評価を行う新しい解析方法を提出した点,およびペプチド性医薬品投与製剤の剤形の評価に具体的で有用な情報を提供した点意義深いと思われる.
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