脳を構成する神経系のネットワークはグリア細胞によって取り囲まれている。アストロサイトはグリア細胞の一種であるが、神経伝達物質をはじめとする各種受容体がアストロサイトに存在する。本研究では、ウサギ培養アストロサイトおよびヒトアストロサイトーマ細胞を用いて、受容体刺激時のイノシトールリン脂質代謝・細胞内カルシウム動態およびアラキドン酸代謝について検討した。ブラジキニンは培養ウサギアストロサイトにおいてホスホリパーゼCの活性化を起こし細胞内カルシウム濃度の上昇を示したが、同時にプロスタグランジンE_2の生成をもたらした。プロスタグランジンE_2生成は百日咳毒素処理によって抑制されるにもかかわらず、ホスホリパーゼC活性化は抑制を受けないことより、二つの違うシグナル伝達系がブラジキニンによって活性化されるものと考えられる。一方、ヒトアストロサイトーマ細胞では、ウサギ培養アストロサイトと同様にブラジキニンによってホスホリパーゼCの活性化・細胞内カルシウム濃度の上昇を起こしたが、プロスタグランジンE_2の生成増加は認められなかった。アストロサイトーマ細胞ではアラキドン酸の遊離がブラジキンによって認められず、ホスホリパーゼA_2活性の欠如が考えられた。癌化したアストロサイトーマ細胞でホスホリパーゼA_2の活性化が認められなかったことは、アラキドン代謝系のアストロサイト機能における重要性を示しており、現在詳細に二つの細胞の機能を比較検討中である。今後、アストロサイトーマ細胞とアストロサイトのアラキドン酸カスケード等の比較を通して、神経細胞との相互作用が明らかになっていくものと思われる。
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