グリア細胞であるアストロサイトの機能を明らかにする目的で、以下の研究を行った。(1)アストロサイトのプロスタグランジン(PG)生成能に対する漢方薬の作用の検討を行い、葛根湯や三黄瀉心湯が強いPGE_2生成阻害作用を持つこと、さらに、オウゴンなどの生薬がホスホリパーゼA_2の阻害効果を持つことを明らかにした。新しい作用点を持つアラキドン酸カスケード制御薬の開発が期待される。(2)アストロサイトの情報伝達系に対するマストパランの作用を解析した。アストロサイトではマストパランが特異的にホスホリパーゼCの抑制を起こすことを明らかにした。また、マストパランはGiを介したホスホリパーゼA_2の活性化とともに、ホスホリパーゼDの活性化を起こすことを世界ではじめて明らかにした。(3)アストロサイトに存在するトロンボサキA_2(TXA_2)受容体の情報伝達系について解析を行った。第一番目にTXA_2受容体がGpと共役することを明らかにした。次に、TXA_2受容体の脱感作について検討を行い、脱感作が二つの過程に分離できることを明らかにした。すなわち、受容体とG蛋白の脱共役と、受容体の細胞表面からの消失に分けることができる。また、脱感作状態の細胞ではTXA_2受容体mRNAレベルの変化は認められなかった。(4)海洋由来生理活性物質のアストサイト機能に対する作用を解析した。セストキノンは細胞内カルシウムストアからのカルシウム遊離促進反応があることを明らかにし、また、マイトトキシンはホスホリパーゼC-γの活性化を引き起こすコトを明らさにした。(5)グリア細胞培養上清を神経細胞に添加した実験から、グリア細胞が神経細胞の分化誘導を起こす液性因子を放出することを明らかにした。この因子は神経成長因子(NGF)よりも強力な作用を持っており、その分子の実体の解明が望まれる。以上のように、アストロサイトの中枢神経系における役割を明らかにするためにその情報伝達系の検討を行い、いくつかの新しい知見を得ることができた。得られた結果はアストロサイトの脳における重要性を示しており、今後の解析に有益な情報となるものと思われる。
|