胃粘膜防御機構における神経・オ-タコイド調節のしくみ明らかにする目的で、種々の実験標本を用いて胃粘液、胃酸、胃血流等を測定した。主要な成績をまとめると、1.胃粘液分泌は中枢性刺激により、迷走神経を介して亢進した。この反応における迷走神経の末梢ムスカリン受容体サブタイプはM3であることが判明した。カイニン酸の中枢内投与は胃酸分泌を亢進し、この作用に中枢セロトナージック神経の介在があることを見い出した。胃粘液も同様の機序より亢進する可能性が推測された。2.オ-タコイド役割に加えて、カプサイシン感受性神経およびNO神経の役割が注目されている。NO調節機序に関する検討では、NO供与薬の投与は胃酸分泌を顕著に亢進し、胃粘液分泌を軽度に亢進した。一方、NO合成阻害薬の投与はベササネコール刺激酸分泌を抑制し、コリナ-ジック刺激において内因性NOの関与が示唆されたが、胃粘液分泌においてはそうした関与は認められなかった。また、カプサイシン感受性神経は胃粘膜に対して保護的な役割を持つことが推定された。3.胃粘膜細胞画分標本において、粘液合成能はプロスタグランジン処置により軽度に増大する。しかし、その増大程度はin vivo標本に比べて極めて小さかった。その理由はin vivo標本では粘液分泌刺激薬により貯蔵粘液の一過性の放出が起こるためと考えられた。4.In vivo標本においてEGF関連薬MG111はアスピリン-塩酸およびPAF誘発胃出血を著明に抑制し、胃粘膜の抵抗性増強効果が認められた。刺激酸分泌に対して全く作用しないので、この薬物は防御系に対する増強作用であることが推測された。5.動物にストレスを負荷すると、虚血-再灌流が不規則に起こり、ラジカルが発生する。このラジカルの消去機能としてヘモグロビン分解産物であるビリルビンが関与していることを見い出した。
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